私、・、初めて侵略されてしまいました。
1.微笑む冬の悪魔
無敵と謳われていたプロイセン王国の植民地となり(と言うか保護下に置いて頂いていた。単に私が弱小国だから)、今まで他国からも攻め入られず平和な日々を送っていたのにある日突然ロシアに攻め入られた。メチャクチャ恐かった。
そもそも我が国に軍隊なんてものはない。常にあの世界最強の軍隊の保護下にあったのだからそれは当然だ。誰も好き好んでプロイセンという大国を敵に回しはしまい。
その、筈だったのだが。
何かしらの事情があったらしく、私はさっさとロシアに侵略されて今に至る。ギルベルトさんからとても眉を潜めた様子で「悪かった」と謝られた(あのギルベルトさんが!!)ので、余程の事があったに違いない。真相を知りたくもあるのだが、私のような弱小国がどうこう出来る筈もなく、大人しく極寒の地・ロシアへと強制連行されたのだった。
***
寒い。寒すぎる。
何だ此処は。半端なく寒いんだけど!!
そう誰かに訴えたい。だが目の前を歩いている人にだけは無理だ。後ろから見てもその長身と色素の薄い髪が特徴的である―――ロシアさん。彼にだけは言えない。でも寒い。こんな寒さ体験した事がない。
「今日は少し暖かいなぁ」
小さくそう呟く声が耳に届いた。
な、何だって!? これで暖かいだと!!?
年がら年中冬だとこんな気温でも暖かいと感じてしまうものなのか。まぁ私はひたすら暑い気候だったからどうとも言い切れないけど。
そこのところ、どうなんだろう。
「―――、……!?」
あ、危なかった!! 今、ロシアさんに声をかけようとしていた!!
自分で自分が何してんのか一瞬解らなかったよ…!! 手とかもう少しでロシアさんに届いちゃうぐらいだったし。咄嗟に手を懐に戻しもう片方の手で抑える。
流石に侵略した相手に自ら話し掛けるだなんて肝の座った事は出来ない。
私の気配に気付いたようでロシアさんがこちらを向いたが紙一重で下を向いて目線を合わせないようにする。再び向き直したようで私は小さく息を吐いた。
目の前にはロシアさん、周りには真っ白な世界しかない。それはまるで私達二人しか居ないかのような錯覚を憶えさせた。
……そもそもこの人はどうして私を侵略したのだろうか。付近の国ならまだしも、ロシアさんと私は随分と距離がある。私の位置を大雑把にカテゴリ分けすると「南国」、しかも島国に当たる。
なのに何故かわざわざこんな北方からこちらまで。ギルベルトさんとは昔からだったから別段何とも思わなかったが、よくよく考えるとこの状況はおかしい。うちの国、そんな有名な特産物があるわけでもないし。
何が目当てで私を?
訊ねたいがそんな事、出来ないって事ぐらい百も承知だった。
(…………会話は良いとしても、ロシア語の読み書きって難しそう……)
無意識にこの状況から逃避したかったのかも知れないが、結果的には大した差などなかった。
(ギルベルトさん、元気かな……)
彼にはとても良くして貰った記憶しかない。何だかんだでまるで私を妹のように扱ってくれたのだ。私だって兄のように慕っていたし(時々「兄」に似つかない言動があったがそれはスルーだ)。だから今回の出来事でのショックはさりげなく大きいものだったりする。
(無理矢理引き離された兄妹ってこんな感じするのかも知れない……)
しかし当分(いや多分ずっと)私はロシアさんの植民地になるワケだから、いつまでも思い出にすがっていてはいけない。
そう、自立しなければ!! いつまでも依存ばかりしていられないのだ!!
まるでそんな私の決意を嘲笑うかの如く風は雪と冷気を巻き込み、吹雪いたやつらによって涙が目尻に浮かび出た。
(ううっ、既に挫けそうですギルベルトさん……っ!)
南国の私には未体験の「雪」はどこまでも私に冷たいものだった。
あとがき
露様連載作品。第一話。
長ったるいタイトルは嫌でサッパリしたもの(単語的な)にしたかった。そしたらこうなった。
しかしタイトルに似合わず比較的明るい作品になる予定。コメディチック?
「ありふれた 恋心に今 罠を仕掛ける」
ふと思ったら、何か露様ありえそうでゾワッてなった。ボカロのカンタレラ、大好きです(どうでも良い)。
2009.08.01
相楽縁