必然アクシデント




「……レポート終わんないよ……」


パソコンの液晶画面と睨み合いながらもは段々と目に疲れを感じ始めて、結果的には机に頭をコテンと落とした。実際“コテン”なんて可愛らしい効果音などせずに、“ゴン!”と激しく打ち付けた音が聞こえたが、それは彼女の疲れを現しているようで、小十郎はリビングでソファーに座りその様子を想像してまたか、と思いながら冷めた様子で書類と睨めっこしながらコーヒーを口に含んだ。


「何これェ…。もう少しマシな課題はないのか!! 何だよ、『現代のコンピューター社会においての今後の社会考察』って!! んなもんテメェらで考えやがれ…!!!」
「こら、。女がそんな汚ェ言葉使うんじゃねェ。…やっぱりまたレポートか…」
「片倉さァん! 私こんなの無理ですよ! 現代の社会について何とも考えてませんもん! コンピューター増えたら便利な事も多くなるけどその分危険な事も増えますねって事ぐらい!!!」
「それ書けよ」
「これだけでどうやって埋めろと!! もっと難しい四字熟語とか使わなきゃそれっぽく見えない!」
「テメェは四字熟語使えばそれで良いと思ってんのか。」
「いや、違いますけど…。何かこう、ね?」
「解らねェよ。じゃあ今お前が思い付く四字熟語を上げてみろ」
「えェェェエ!!? えーと…し、支離滅裂、不倶戴天、弱肉強食、罵詈雑言「待てコラ。」


次々と挙げられていく四字熟語を聞き、脳内でその意味をひとつひとつ確認してみるが、確かにそれは良い意味で使われるものではないだろうという事は解る。
大体何故この年頃の娘が「支離滅裂」や「弱肉強食」は一般的だとしても、「不倶戴天」などそうそう知っているものではないだろう。その人の育って来た環境にも寄るかも知れないが、小十郎自信は「不倶戴天」がそんなポピュラーな四字熟語だとは思っていないのだ。


「何でお前そんな変な四字熟語ばっかり知ってるんだ…!!」
「そ、そんな脱力しながら諦めように言わないで下さいよ…! 本で憶えたんですよー。」


何の本を読んでいるんだお前は。
そんなにダークな話なのか。それとも純文学で無駄に四字熟語が使われているのか。


「もっと普通のだってあるだろう」
「例えば?」
「例えばァ? ……我田引水とか、「何故ここで我田引水。」
「うるせェ! あとは…手前勝手、得手勝手、牽強付会…」
「それ全部類義語ですよ」
「チッ…! …あぁ、異口同音とかだろ!」
「何で片倉さんそんな誇らしげ…? あ、じゃあ今度はそれの類義語お願いします!」
「あァ!? …異口同音…。異口同声、異口同辞、衆目一致、衆議一決、衆口一致、満場一致…てとこだな」
「似た雰囲気の字ばっかりな気がします」
「当たり前だ。」
「む…。あ、じゃあ片倉さんッ! 易姓革命って知ってますか!?」
「知ってる。」
「な、何おう…!! ……あっ、じゃあ、羊頭狗肉ッ!!」
「何でお前の知ってる四字熟語はそんなにマニアックなんだ。」


その後は必死になって小十郎に縋りつきながらレポートを手伝って貰い完成させて舞い上がったは良いが、データを保存せずに消した為また途中から書き直すハメになり、小十郎の大目玉を食らうのだった。









あとがき
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私は「不倶戴天」は去年ぐらいに知りました。漫画で。これもう絶対忘れない。
知らない四字熟語だったんであんまりポピュラーじゃないよな、と思ってるんですが、これって地方とかによるんでしょうかね…?(四字熟語に地方って)
「我田引水」ってヤケにテストで良く出て来ませんか。ちなみに何故か「我」の字が好きなので(書く時のバランス的に)、意地でも憶えちゃってます。
いや、だからって長曾我部も同じようにして憶えたというワケではないよ!?
2008.04.04