フメツノフェイス






「欲望が悲しみを招くとしたら、如何致します?」


それは、唐突に久秀に突きつけられた問いだった。特別難しいだとかそんな事は思いもしないが、このような問いには正解などないのが道理ではないか。
ただその問いによりその人間の人間性だとか、色々なものが特定されるらしいが。久秀自身はそんな事は信憑性も何もないものだと思っている。


「……私は悲しみを感じないのでね」
「まァ。左様でございますか」
「冗談だ」
「……殿が申されるとご冗談に聞こえません」


正室のが突然出して来た問いに、思わず詰まった。
何の意味もないものだけれども。
おまけに「仮定」での問いなのに。
しかし確かに欲望は様々なものを招き入れていくのだ。
達成した時には「喜び」が生まれるだろうが、叶わなかった場合、叶わないと悟ってしまった場合、悲しみという言葉だけでは形容し難い感情が生まれるものだ。
知ってはいるが、今のところだとこの松永久秀という男は自分の欲望が叶わなかった事などないので、そのような感情を持ち合わせた例がない。そうすると先程に言った『悲しみを感じない』という事も強ち虚言ではなくなる。
久秀はどこか他人事のように、そんな事を思っていた。宛ら自分でも観察者のようだと思ってしまうほど。


「悲しみなどは要らぬ感情だろう」
「何故ですか?」
「戦場においては冷静な状況判断力を失わせ、敵に恥を曝す。悲しみというのはあっても得のひとつもない感情だ」


は少し眉を顰めた後、その話の内容には最早飽きを感じたのか、別の事をしようとしている。どうやら書でも嗜むつもりのようだ
久秀はその様子を見ながらふと口を開いた。


「私が悲しいと感じるのは死ぬ間際ではないかな」
「……縁起でもない事を申さないで頂きたい。空想上で話すのはもうやめに致しましょう」
「おや、から先に申し始めたのではないか」
「もう宜しゅうございますっ」


は拗ねた様子をありありとしながら机に向かおうとする。
するとまた突発的に久秀が


「私は自分の骨は残さぬよ」


と言い出した。


「………信念のある下での、そのご判断でございましょうか」
「なに、屍は残したくないだけだよ」
「…左様でございますか」


はそれ以上追求するのをやめた。
どうせ自分には理解出来ぬ事だろうと判断したからである。


「屍を見たら、それが最後の姿として最も頭の中に残ってしまうだろう?」
「え、」
「他人の中の残像でぐらいは最後は最も良い姿で終わりたいじゃないか」


最後の最後では久秀の思惑を理解出来たような気がした。










「だから万が一私の屍が残ってしまったとしてもは見てはならんのだよ」
「……物騒な事言わないで下さいませ。そんな事より死なぬと誓って頂きとうございます」






あとがき
この歌大好きです。元々B'z大好きですけれども。
「欲望」と聞くと松永さんしか浮かんで来ません。嫌な奴なのに何故か嫌いにはなれない松永さん。
最後の方は何か上手く松永さんと歌詞を繋げる事が出来た気がするよ!(気だけ)
2008.04.03