散って、乱れて




「なァなァ! 見ろよこれ!!」
「? 何でございましょう?」

まつによって京から無理矢理引き戻された慶次は、これを好機としてか、いつも自分の忍がいるところにやって来た。何かを、右手に握って。

「これ、にやるよ!」
「…わぁ、綺麗。簪にございますか?」
「綺麗だろー? 京だと女の子達がおめかしの為にしょっちゅう簪つけてんだけどさー。にも!!」
「………。…いえ、あの、お心遣いは大変恐れ入るのですが、私は下の忍でございます故、そのような物は……」
「えー!? 良いだろ別にー!! 他の子も喜んで貰ってたぜ!?」

この人の好意は、時々重苦しいものがある。
に「も」。それは他にもまだ渡した人がいるという事だ。
大勢の人に好まれても、本気で彼を想っている人間にしてみればこれ程残酷な事はないなとは思う。

「他の女子に差し上げてはいかがでしょう。喜ばれると思いますよ」
の為に買って来たんだぜ?」
「……なりません、慶次様。私には勿体無うございます」
「…ちぇー……。じゃあさっ、せめて持っとくだけでもしといてよ!!! 俺またすぐ京に行くからさ!!!」

あっ、まつ姉ちゃんには内緒にな! と悪戯っ子のような顔で慶次がそう言った。
京の人間にとっては嬉しい事なのだろう。大好きな彼が帰って来る、と。
事実彼自身は京が大好きだからだ。
やっぱりこの人は駄目なんだなァと思い知る。
総てを平等に愛し、接する。
その平等の中から抜け出せた者は過去に1人いたが、最早この世には存在しない。
それを考えると、余計に辛く思えて。

たまには視点を変えて、身内から物事を見てみれば良いのに。
無理だと解っていてもそう思わずにはいられなかった。







慶次がに簪を渡そうとする瞬間、はひと言だけ小さく主に謝罪の言葉を言って、その場から姿を消した。




慶次の手の中にあった簪が、重力に逆らわずにカシャンと繊細な音を立てて地面に落ちた。















あとがき
どうして私は慶次だとシリアスしか書けないんだろう…!!!orz
何かね、あの皆に優しいが故に傷付けちゃう人もいるんじゃないかなー、みたいな。
慶次みたいなタイプは好きですが絶対にこーいう想像しか出来なくなっちゃう。明るいのは何処へ!?
2008/03/02