「…?」
慶次がハッとして外を見つめると、彼の両隣の舞妓達は不思議そうに目を見開いた。
「慶ちゃん? 何かおったん?」
そんな気がした。
とても大事な人がいた気が。
いくら頭の中でそうではないと言い聞かせても、本能がそれを拒否し、同時に否定している。
見間違える筈がないと。
確実に見たと言うのではない。だが今まで感じた来た気配が彼女を物語っているのだ。
「…………?」
先程よりも多少しっかりとした声音で、彼女の名を呟いた。
だが、呟いただけ―――。
「まつ様、ただ今戻りましてございます」
「。それで…」
「これで、ございますよね?」
はそっと持っていたものをまつに差し出した。
それを見てまつは感嘆の声を上げた。
「まァ!! 見つけられたのですね!!」
「はい。京でも、随分と解り辛いところにございましたが」
「やはり、その手のものは忍に任せるのが一番でござりまする!!」
「お役に立てたのなら、何よりでございます」
まつがとても嬉しそうにしているのを見て、の顔も思わず綻んだ。
が今回京へと足を運んだのは他でもないまつの為だ。
甲斐甲斐しい彼女は、夫の為に美味しい飯を作ってやろうと思っているのが常。
京にあると言われる幻の食材を探しに行ったものの、見付からなかったらしく、へと話が回って来た。
忍のからしてもそれは見付け難い場所にあった。流石に忍と言うべきか、きちんと見つけて持ち帰ったのだが。
「それと、」
「……慶次様に関する情報は多々あれど、御姿を拝見する事さえも叶わずで…」
「そうでござりまするか…。まったく、あの子ときたら…」
眉を八の字にしていかにも困った顔をするまつを見て、は心の中で謝罪した。
実は、京に滞在中、一度だけ慶次を見たのだ。
あの時どんな行動をしてれば良かったのだろうか。
ただ彼を見た時、“もう帰って来ずに、ずっと京に居れば良い”と思ってしまった。
彼の部下としてはあまりにも無礼極まりない。まつ達が考えている事とはひどく真逆で。
はスッと目を伏せた。
主に恋心なんてものを抱く事は、なんて儚くて、なんて馬鹿げていて、なんて無謀な事なのか。
これは自分への戒めだ。
永遠に解く事の赦されない、戒め。
変わらず胸に聳える十字架
あとがき
思えば最後の方かすが全否定…orz いや、かすが大好きです。
私の慶次はもうシリアス路線というか悲恋でいくしか出来ないのか。…ほのぼの慶次夢が書きたくてもこの手が勝手にシリアスにしやがります。何故。
2008/03/10
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