突然だが、私の家は自営業で稼いでいる。

色々な利点はあるにせよ、利点があれば不利点もあるはずだ(あれ、利点の対義語って不利点だっけ?)。




私は今、その不利点の最高点にいる。我が家の自営業は簡単に言ってしまえば雑貨屋だ。

今日は日曜日。世間は普通に休みである。しかし自営業には休みがないのだ。いや、あるけども。うちの雑貨屋の定休日は

決まって平日だ。確か月曜と水曜。その曜日以外はバッチリ起動しまくっている。学校から家に帰れば即手伝い。休む暇もな

い。部活の後なんだから少しは気遣って下さいよ、お母さん。




そして今日も同じく。本来ならば友人と出かける予定だったのに、お母さんが突然用事で出かけなければならなくなり、私は

友人にいやいやドタキャンをするハメになった。最悪だ。この間良い感じの服を見つけたから買いたかったのに。あー、

怒ってんだろうなー…。




そんな感じで私はあまり機嫌がよろしいとは言えない。

こんな事を考えながら店番というかまぁレジ係をしているワケだが。客に愛想のない店員だと自分でも解る。うん、解るよ、で

も不機嫌なんだから仕方ない。取り敢えず表面上だけはニコニコしてるけど。









お昼になって人がまばらになった頃、お客さんが2人入って来た。その顔を見て私はギョッとするのだ。









「は、榛名……!」

「あ、









隣にいた女の人が「え、元希の知り合い?」なんて尋ねた。














何か、1番逢いたくなかったかも。



















榛名は私と同じ武蔵野第一の野球部。もっとも私はマネージャーですがね!!

その榛名はこの店に女の人と2人で入って来た。ほぅ、彼女か。ああ見えて確かに顔は良いもんなー。そしてやっぱり年上。

そうだ、アイツは年上好みそうだ。前に好きだったというのも宮下先輩だったし。




ふぅむ。野球馬鹿に見えて意外とちゃっかりしているらしい。それにしても榛名がこんな雑貨屋にいるのがあまりにもミスマッ

チで笑えてくる。




榛名達以外の他のお客さんが何組が精算を済ませドアに設置されているベルを鳴らしながら出て行った。うん、まだ良い音

してる。




どうやらあの2人はアクセサリー辺りで色々話している。んー、お誕生日のプレゼントを買いに来たとか! これくらいしかな

いと思う。どちらかがどちらかに向けてのプレゼントー、とか? …あれ、榛名の誕生日って最近なんだっけ?




あちゃー、マネージャーなのに憶えてないや。まぁ、憶えていたって大した得にもなりゃしないんで良いんですがね。









あの2人が帰ったら、ちょっとだけ閉店して、ご飯食べて、2時半頃からまた再開。うちの店は一応カフェ的なものもやっているの

で若い人達がその時間は結構来る。あー、お母さん3時には帰るって言ってたからきっと3時半には帰って来る筈。あの人

は自分で発言した時間より30分近く遅れてやって来る。それくらい大目に見ておいた方がお母さんには丁度良い。









「おい! ! ちょっと!!」









そんな事をボーッと考えていたら乱暴な声で榛名に呼ばれた。おのれ、せめて店員さんと呼べ(いや、別に対した意味はない

んですがね)。




取り敢えず頭の中では罵詈雑言を吐きながらも表では爽やかに。ドス黒いもんは見せるな。









「はい、何でしょう?」

「うわ、お前それキモい」

「うるさい、今ここは家の店なんですけど」

「へーへー」









何こいつ、人呼んどいてその態度は何なんだ。









「あの、これの色違いってまだありますか?」









そう言って女の人が差し出して来たのはクローバー型に縁取りがしてあるペンダントだ。クローバーなら緑だろ、という感じで

薄い感じの緑色だ。




色違いと言えば、確かこれを置いてある所に商品の写真を置いてあるからきっとそれに載っているピンクかシルバーの同じ

ものの事を言っているんだろう。









「ちょっと待ってて下さい、今探して見ます。ピンクとシルバーどちらの色がよろしいですか?」

「え、っと、出来れば両方ともお願い出来ますか?」

「はい、少々お待ち下さい」









私が歩き出すと、何故かもう1つ足音が聞こえる。さっきの女の人はまた別のリングとか見てこれも良いなーとか呟いてる。



そう、私の後ろにいるのは榛名だ。









「……何か?」

「いや? お前も休みの日にゴクロウサマだなぁと思ってよ」

「そう思うなら明日の部活で労わって下さいな」

「そりゃ無理。というかオレにそんな権限ねぇし」

「『休ませてくれなきゃ投げませんよ』とか言えんのかね」

「言えるか、アホ。オレは投げるのが生き甲斐なんだよ」

「まー、さみしい生き甲斐だね」

「てっめぇ…!!」









私は足を止めずにズンズン歩く。何故かこいつはまだ着いて来る。ちょっ、店の中の倉庫にまで入る気!?









「いや、これ以上は関係者以外立ち入り禁止ですので」

「オレ関係者じゃね? お前の部活の仲間ってことで。店の倉庫ってどうなってんのか見てぇんだよなぁ」

「あんたの願望なんて知らない。あ、そうだ。さっきの人何歳?」

「あ? アイツ? えーっと…オレが今17だからー…もうすぐ20じゃねぇのー?」

「へー! そうなんだ!!」

「……んだよ」

「いや、別に? あ、これ以上は入っちゃ駄目ね」

「ズリィ! ケチ!!」

「黙れ! 私は仕事でやってんのよ!!」









現在の時刻午前11時43分。きっともう少ししたらこの人達も帰る筈だ。

取り敢えずさっさと探さなきゃ。






テキトーに奥の方に行って、ダンボールの中とか覗いてみる。そしたらまた小さなダンボールがいくつか詰め込まれている。

……私こんなのの中から探し出す自信ない。




そして数秒考えた結果、結局行きついた先は携帯という文明の利器でお母さんに連絡をとること。









ピピピッと3回真ん中のボタンを押せばお母さんの携帯へと繋がる。まぁ、どうにかなるだろう。









『…もしもし?』

「あ、お母さん? ちょっと商品の場所が解んないんだけどさー」

『えー、ちゃん解んないの!? もー、しっかりしてよー』

「誰かさんが休みの日に無理矢理起ドタキャンさせた所為で機嫌悪いからその影響で何をする気も起きないの。あのさー、ク
ローバーの縁取りのやつの色違いってまだ残ってる? えーっと、ピンクとシルバー。あ、ペンダントね」

『あー、確かあとちょっとだけあったわよー。商品置いてるところの棚の上に白い小さめのダンボールあるでしょー。その中』

「んー……。あ、あった。よし、助かったお母さん。ありがとー」

『はーい。2時には帰るからー』









さっきより早くなってるし。とは言ってもまた大目に見て2時半だろう。まぁ、良い感じの頃合いだと思う。














早速商品を持ってさっきの女の人の所へ向かう。ドアを開けたとき、目の前では榛名が何かクロス系の商品と睨めっこしてい

た。









「何? 買うの?」

「あ、見つかったのか」

「うん。ね、買うの?」

「いや、買わねー」

「あっそ。いじっちゃ駄目だからねー」









そしてまた移動する私の後に着いて来る。女の人が「あ、元希! どこ行ってたかと思ったんだから!」とか言ってるけど榛名は

全然気にしていないようだ。そう言えばコイツの名前って「元希」だっけ。ヤバいな、私。本格的にボケ始め? それは勘弁!!









「お待たせしました! 2つともございましたがどうなさいますか?」

「うーん…。ねぇ元希、どっちが良いと思う?」

「どっちでも」

「もうちょっと考えなさいよ。…じゃあ、両方下さい!」

「かしこまりました。ラッピングはいかがなさいますか? プレゼント用で?」

「はい、プレゼント用でお願いします」

「ではレジの方へどうぞ」









榛名がさっきから物珍しそうにこっちに送る視線が凄く嫌だ。

そりゃあ部活の時とは違うさ。当たり前でしょ!!









個別でお願いしますという指示が来たので透明な袋を2つ取り出してその中に…―――あれ、これ何て名前だっけ? こう

…紙が細切れにされてモジャモジャしてる…ああ、思い出せないからもう良い!! ラッピングとかに良く入ってるのを想像し

て頂ければ幸いだ―――を入れて、それにペンダントを入れる。あとは後ろをセロテープで止めて、表にシールを貼って、リ

ボンをかけて、リボンの余り部分を指と爪でシューッと引っ張るとリボンがクルンと良い感じになるのだ。よし、完成。




精算を済ませて、榛名達は帰ろうとした。しかし榛名は女の人に先に行っとけ、なんて言ってこっちに引き返してきた。何です

か、あなた。









「おい、

「何? 私これから一旦店閉めて昼食とって午後からの準備しなきゃなんだよね」

「お前、勘違いしてるっぽいから言うけどさ」

「…はぁ。(何言われんだろ)」







































「あれ、オレの姉ちゃんだからな」





























「…………マジで!!!??」

「おう、マジマジ。お前勝手に彼女とか勘違いしてただろ」

「いや、普通にするよ。へー、アンタお姉さんいたんだ!」

「おー。なぁ、午後からまた何か違う事するのか?」









なんでこんな時だけ察しが良いんだろう、コイツは。









「んー、まぁね。午後からこの店は雑貨屋兼カフェとなります」

「マジ!? へー、スゲー!! あ、お前今から飯なんだろ?」

「アンタが帰ってくれればね」

「なぁ、昼飯食わせてくんね?」

「………アンタに飯を食わせてやることによって私にはどんなメリットが生じるのでしょうかね」

「うわー、メリットとか考えるなよー。な、食わせて」

「アンタさっさとお姉さん追っ駆けなさいよ! 自分の家で飯を食え!!」

「えー、何かの食ってみてーもん、オレ」

「うわー、ウゼー」

「おまっ、そういう事は思ってても言うなよ!!!」














私は押しが弱いからどうせ榛名の押しに負けたんだ、チクショウ、なんて思いながら昼食をご馳走してやったら(元は取った

よ)まだ12時半だというのにお母さんが帰って来て私と榛名の昼食中を見られてしまった!!!









あなたどんだけ時間守らないんだお母さん…!!!!














クソ生意気にも榛名は顔が良いのでニコニコしながらお母さんに取り入ったというのは最悪な話(いきなり真面目な表情で

さんとお付き合いさせて頂いてます」とか言い出した時はお茶噴き出しちゃったんだから!!!)。











えー、何か微妙な仕上がりに…orz 突発的に浮かんだネタ。友人の家が雑貨屋なのでちょっと頂きました。
家が自営業って辛いですよー…私も手伝わされるので。 お姉さんネタで勘違いはやってみたかった!!

2007.8.7