ここ数日俺は自分で最悪だと思うぐらい機嫌が悪い。
いや、別に仲間に当たってはいるけどそいつらが悪いというわけでもなくて。
あー、最悪。別に誰が悪いっていうわけじゃないし、俺にはどうしようもない事なんだけど。
というか俺さっきから「悪」って言葉使い過ぎてる。あー、もう。考えんのもやだ。




ロシアンブルー脱走の喜劇




正直言えば、俺の機嫌の悪さの原因は我が家の猫にある。
贔屓目で見てんのかもしんねぇけど、ロシアンブルーで目がパッチリしてて可愛い猫なんだよ。
そいつが何でか知らねぇけどどっか行っちまって、俺の癒しがどこにもねぇ……!!

いやいやいや、とにかく猫ってのは気ままなもんだし数日すりゃ帰って来るかなーとか思ってたんだけど、2週間経ってもそ
の姿を現さない。これはどうした事だろう。
まさか他の家の猫になってたりとか、未だに家が解んなくなって路頭に暮れてるとか、まさかまさか、と考え出したらキリがな
くて、頭の中で嫌な方向にばっかり進んでしまう。

そんな時にクラスメイトのから猫がいるから家に来いと言われた。
は高校からこっちに引っ越して来た奴で、大人しい奴かと思えば結構喋るし面白い奴だ。
引っ越して来た先が俺のお向かいってワケだから、まぁそこそこ親しくもなった。
正直今あいつ以外の猫に逢いに行くというのも気分ではなかったが、の剣幕に押され、見に行く事となった。
そう言えばこいつ、猫なんて飼ってたのか。意外だ。


「へへー、叶に見せたかったんだよねー」
「何でだよ」
「何となくだよ」
「………種類は?」
「んー? …お楽しみ」
「んだよ、それ」


その辺にあいつがいやしないかとキョロキョロしながら歩いていたら、が不思議そうに声をかけてきた。


「何かある?」
「あ、いや、何でもねぇ。ちょっと探し物……」
「何か落としたの? 一緒に探そうか?」
「良い、大丈夫。多分そのうちひょっこり出て来ると思うし」
「ふーん。見つかると良いねー」


ホント、見つかると良いのに。
それにしてもホントコイツ悩みのなさそうな顔してんなぁ、羨ましい。
きっとあれだ、「悩みのない事が悩み」って奴なんだ。俺は今猫脱走事件が悩みだけど。
さっきから含み笑いをしているを見ながら、何か怪しいな、なんて思ってた。
悩みがあると何でもかんでも疑ってしまうらしい。ああ、神経研ぎ澄ましっ放しで疲れる。


「はい、着きましたー。いらっしゃーい」
「俺ん家お向かいなんだけどな」
「気にしない! ほら、猫見せてあげるから!」


そう言うの顔はいつにも増してニコニコとしている。
そんな事を冷静に観察しながら俺はに着いて部屋まで行った。


「はい、ご対面〜」
「何だそれ…、…っ!!?」


マヌケなセリフと共に開け放たれたの部屋のドア。目の前には、ロシアンブルー、つまり我が家の猫がいた。
俺を見つけるとすぐに部屋の中から走って俺の腹辺りにタックルをかました(ジャンプして来た分結構痛かった)。


「え、ちょ、これ……!?」
「え、叶ん家の猫でしょ? ねー、ゼロくん」
「みゃあ」


ゼロは頭を撫でられ嬉しそうにしている。
首に着けられている首輪は確かに我が家の猫の証である。


「…何でん家にいたの?」
「いやぁ、いきなり転がり込んで来ちゃってさぁ。叶ん家のだってのは知ってたんだけどなかなか言う機会がなくってさぁ」
「さっさと言ってくれよ」
「だってずっと叶イライラしっ放しで話しかけられなかったんだもん」


この俺の2週間の気苦労っていったい……?


そう言えばの家はお向かいにある割りには上がった事がなかったと今更ながら思い出した。
案外この猫脱走事件で俺は小さな得をしたのかも知れないと、少しだけ思った。
取り敢えず最後はポジティブにまとめとこうっつー俺の配慮だよ、配慮。




あ、チクショウ。何かこの2週間と過ごしていたゼロにイライラして来たかも。





初・叶夢!(これは夢と呼べるんだろうか) 突発的に浮かびました。
何となく叶くんは猫飼っててそれがロシアンブルーだと思った…! うーん…猫目だもんなぁ、叶くん。
ペットの名前はテキトーに付けました。私のブログペットもこんな名前^^
2007.9.23