それは酷く憂鬱な気分にさせる蹄の音だった。
いくら望んでも目的地に到着するまで鳴り止まない音。籠の中から聞くそれは何とも忌々しい。
「なぁ、佐助……。まだ奥州には着かんのか…?」
「まだ全っ然…。ねぇ、俺様忍として先に行って障害物がな「ならぬ」……」
きっぱりとそう言い切った君主の言葉には多少の焦燥やら懇願の意が込められている。佐助も気持ちが解らないでもないのだ。
「……見なよあの籠から伝わる気迫…。はは、近付くにつれて薄れるどころか強くなってるし。もう何なの姫さん恐いよ俺様」
「お前までおかしくなるな佐助! 一番辛いのはあの馬達だぞ!!」
「(馬…)……そもそもさぁ、姫さんを無理矢理連れて行こうってのが間違いだったんだよ。嫌々来たって何の解決にもならないと思うし」
「…それは、某だって解っておる…」
互いに次の言葉に詰まった。何を、どう言おうか。
いっその事話題を転換してしまえば良いのだろうかと佐助は考えたが、どうせこの君主は流して再び元に戻す。それが予想出来る。
この二人が黙り込んでしまうと最早聞こえるのは籠の中から発せられる負の感情の所為で軽やかとは言えない蹄の音。その一歩一歩が奥州に近付いているのだと思えば、誰の顔からも笑顔などとうに消えた。
「……佐助は、おかしいとは思わなかったか?」
「何が?」
少しだけ籠から離れて小声で話す。籠の中に居る話題の張本人に聞かれるのは余り好ましくないとの判断だ。
幸村から話題を振って貰えた事で佐助は少なからず声音に安堵の色が見えた。
「の事だ。…伊達家の姫の祝言だぞ? そもそも普通の武家の娘の輿入れと比べても余りにもおかしいとこだらけではないか」
「……それは、乳母とか、そーいう事の?」
「まぁ、それも当然含まれるが…。佐助はその時任務で居なかったから知らなかったであろうが、とはこちらの山中で偶然遭遇したのだ」
「ちょっ、はぁ!? 何それ俺様知らないんだけど!!?」
―――本当は知っている。
あの時は既に任務は済ませてあんた方を木の上から見てましたよ、とは言えず、表面上は驚いた表情をしておく。
人はいくらでも嘘を上手く吐けるのだ。
「誰も連れずに、馬に乗って薙刀片手にこちらに向かっていた。……あれは、明らかに普通ではござらん。それに先日の政宗殿の突然の来訪と言い、その端々からしても…生家に良い感情を抱いてはおらぬだろう」
安易に肯定の言葉を返す事は出来なかった。ある程度の内面なら把握しているが、これは安易には口に出してはいけない。
幸村に言ったところでこの状況は何も変わらない。これは自身で解決しなければならないものだ。
そもそも彼女には高過ぎる矜持の所為でこの関係を直そうという事さえも放棄している。
「……旦那は、姫さんに竜の旦那と仲直りして欲しいの?」
「政宗殿と言うよりは母親とだな」
「…へぇ」
「親子間での憎しみ合いは、駄目であろう。某はどちらかと言うと恵まれた方だと自負しているからな。某が幸せな分、にもそうなって貰いたいものでござる」
「だ、旦那……!!!」
知らなかった。いつの間にこんな格好好い事が言える男になってしまったのか。
思わず鼻の奥がジィンとしてしまったが、少し演技臭く眼を潤ませただけで済ませた。
「じゃあこれも姫さん思っての事なんだね」
「うむ。……まぁ、本人にしてみれば要らぬ世話であろうがな」
「…そこは今後の働き具合によるんじゃない?」
「ばっ、挽回可能か?」
「そりゃあね。姫さんは旦那の事になると心広いって」
「そ、そうか!」
親から悪戯を許された子供のように安堵に顔を綻ばせる。佐助が思っていたよりも君主は妻に今回の事を強要した事実を心苦しく思っていたらしい。
幸村は再び籠の所まで馬を近付けに声を掛けている。相変わらず籠が気に食わないらしく、そこから顔を出しながらもうんざりした表情は上田を出発する時から変わっていない。
(……さぁて、これからどうなるんだろうね)
すっと誰にも気付かれずに木の上に移動してから、忍はその言葉を喉で呟き殺した。
あとがき
どんだけ間を空けたんだと言うね!!!!!orz
ええもう本当すいませんどんだけ長いんだよこの連載の休止期間。大元は出来上がったんで早々にうpしていきたいと思います。
きっちり終わらせたいなぁ。初のちゃんとした長編完結!みたいな。
もう駄目だ何かテンションおかしい何言ってんのか解らんああポテチ食べたい(CMで見てしまった)。←
タイトルは単に曲名に惚れました。ええ、だって猫なんですもの。←
完結したらちゃんと一話一話下に元を入れなきゃなと思っております。……憶えてるかなぁ、それが心配。orz
取り敢えず生温かーい目で見守って頂ければ幸いでございます…!!
2010.02.10
相楽縁
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