憂鬱ミラクル









幸村様はきっと私の性格をまだ熟知してなかったのね。







公家の所へ幸村様の遣いで来て早二日。

既に私は今死ぬまいと必死になって乳母のおと一緒に逃げている。





「おっ、おひい様ァ!! 何故っ、このような事に!!!」
「良いから走れ。あの変な顔の公家の奴がふざけた事をぬかしたからよ」
「ふ、ふざけた事!?」


本当、ふざけた事を。
あ奴はきっと武家の娘をなめている。
伊達の政宗の姉で今は真田幸村の妻というのに興味を示したのかは知らないが、公家だからと言って何をしても許されると思っているあの輩。
何度思い出しても腸が煮えくり返る!!!!!


「……何か、煩いな」
「えっ? な、何と仰りましたか!?」


の言葉に返事をせず、後ろを振り向けばなんとも恐ろしい顔をした女共が様々なものを持ってこちらを追いかけて来ている。
女官やら侍女らしき者達。凄い、あんな顔出来るものなのね。
どうやら刃物がないところを見るに、うわなり討ちのような事をさせようとしているらしい。


きっと女を追わせる事に男は使えぬから、女共を差し向けたのだろう。
ここで言うなれば私は今後妻の立場になるのか。

あんな男の妻になんてのは絶対に嫌だけど!!!


「おっ! 武器を見つけろ、武器!!」
「なっ、何故にございましょう!?」
「うわなり討ちだからよ!!」
「………えぇぇえ!!?」



そんな事を言いながら坂を走っていると(下りだから随分と速い)、大きな門と両端に手頃な棒を持った門番を見つけた。
あれなら丁度良いだろう。

先程までより走っていた速度を上げるとおが「おひい様!?」と叫んだ。
門番もこちらに気付いたらしく、私を見た後に後ろの物凄い形相で追いかけて来る女共を見て青褪めて随分と退け腰になっている。


「ちょっと貸してね!!」
「えっ!!?」


素早く門番から棒を奪い取ると、一旦閉められていた門を蹴り開けた。
流石に女人がこれをしたのには驚いたらしく、後ろから何やら騒然とした声がする。
門番が二人いた為、もう一人からもサッと奪うと、どうにか追い着いたおにそれを渡した。



「おっ、おひい様! おはあまり棒術は…!!」
「薙刀と同じと思えば良い! それで充分使えるわ!!!」
「な、薙刀も嗜んでは……」
「来るぞ、構えろ!!」


女共が追い着いて構える前に棒を使って先頭にいる女官の足を突き、ぐらついたところで腹、胸、頭を突き倒す。
薙刀と違い刃物がない分斬りつけるという動作にあまり意味などないが(いや、まぁ多少は痛いだろうけどさ)、これはこれで突いた時の感覚が面白い。


「お! 良いぞこれ、楽しい!!!」
「おひい様っ、ちょっと、顔が何でそんな活き活きとしてらっしゃるんですかァッ!!!」


の台詞を尻目にザッと棒の先を振り上げれば、女共の鼻先やらを掠めたらしく、一瞬の間に何度かチッという音が聞こえた。


さて、ここからどう出ようか。
すぐに目に入ったのは先ほど蹴り開けた門。女官達と応戦したいた為先程より少し距離があるが、大した事じゃあない。
行けると、確信した。


「おっ! 門だ、走れっ!!」


大声でそう叫べば、髪もぐちゃぐちゃで至る箇所に擦り傷が出来、血が出ているおがよろよろと、しかしどこかしっかりとした感じで出て来た。
まだ獲物を持っていたからこれでもマシな方かも知れない。
今はとにかく逃げて甲斐へと帰るのが一番だろう。遣いの目的は達成とは言い難いが、こうなってしまっては生きて甲斐の地を踏む方が重要だ。


「よし、とにかく逃げるぞ!」
「はっ、はいぃ!!!」


勿論女官達も追いかけて来たが、徐々に小さくなっていくその姿に私は何かしらの爽快感を感じていた。









あとがき ※軽く「夏草の賦」のネタバレ注意!
影響された結果。内容まとまってなくてすいませ…っ!
まァ、姫さんが怒ってる内容は「夏草〜」のやつと似たようなもんだと思って下さい(「伽をしろ」とか言われたワケですね)。そして、まァ…何やっちゃったんでしょ。正直なところ菜々よりもっと凄い事しそうこの子…。
「夏草〜」でうわなり討ちの時とか凄い好きです。戦っていうよりもあんな生々しい戦いが好き(え…?)。

※ちなみに、「うわなり討ち」と言うのは妻と士別や離縁し後妻を迎えた際、
 先妻の縁者が後妻を叩きのめしに行く事(微妙に違う)。
 まァ後妻の方だって縁者連れて応戦しますよ。叩きのめしに行くっていうか相手の台所を潰す?←
 ちなみに刃物は使っちゃいけません。男が介入する事も駄目。台所が戦場になる事が主らしいです。

これが本当に正しいかどうかはわかりませんけどね!orz



2008/07/06