両親が同時に他界してから早1ヶ月。こんな1人暮らしにはデカ過ぎる和風の一軒家にたった1人で住むというのもなかなか退屈だ。
当然2人が死んで凄く悲しかったけど、5分くらい歩けば祖父母の家があるし。両親は2人一緒に逝けたのだからまだ幸せかも知れないと思う。
お母さんの身体はそんなに丈夫な方ではなかったから、その分余計に。
「大丈夫、私は平気さ! なんたって呼べば速攻来る幼馴染がいるしね!!」
そんなひとり言で自らを元気つけるのもどうか、ってな感じだけど、掃除しようとしている今、人手があるに越した事はない。色々な事があり過ぎて殆ど掃除などしていなかったし、流石にこの埃臭さには我慢出来なくなって来ていたところだ。
ポケットから携帯を取り出しボタンを押して何度かコールが鳴ったのを確認しながら耳にあてる。
プツッと相手が出た音。
さぁカモン、パシリ!!!
『!?』
「幸村、今からちょっと用事あるんだけど『すまぬ! お館様にこれから試合をするから来いとの電話を頂いたのだ!! この埋め合わせは後日必ずする故!!!』
「え、あの、ちょっプツッ プープープープー……
あ、あの野郎ォォォオオオオオオ!!!!!
私よりも武田師範か!! 解りきってたけどね!!!!
「くそー……。あーもう掃除する気もなくしたし…」
この埃臭さにだって慣れてやろうとさえしている。
何もしたい事がない。
幸村は良いなァ、熱心に打ち込めるものがあって。
窓から少し外を覗けば、すぐに裏山が目に入った。我が家の裏はすぐに山だ。
ふと、久々に登りたい、なんて思ってしまった。
……何でそう思ったんだろう。
とにかく身体が勝手に動き出した。何かもう、考えるより感じろ状態。いや、微妙に違うか。
ザクザクと緩い坂を登っていくと段々と暗くなって来る。まだ全然昼間で明るい筈なのに。そうだ、ここはいつもそう。薄っすらと木々と葉の間からも木漏れ日だけが足場を見つける微力な手助けだ。
すると突然異質なものが目に入った。
暗闇の中に浮かぶ、2つの金の瞳。
野性的、とは思わなかった。
何故かは知らないけど、とても穏やかで人間に慣れてそう、で。懐かしささえ感じた。ほんの一瞬だけ。
「…狐?」
少し濃いオレンジの毛の、綺麗な狐。
良く見れば前足から血が出ていた。
それでもこちらに威嚇さえしないのは、やはり人間慣れしているのだと考えて構わないのだろうか。
(あ、あった)
ポケットを探ると丁度手頃なハンカチ。
うーん、ちょっとお気に入りだったけど、仕方あるまい。
これで応急処置は出来るんじゃないかな。
「べ、別に攻撃なんて致しませんからー…! ちょーっとハンカチで傷口護るだけだからねー…」
狐相手に何やってんだ私。
あぁ、白いハンカチに真っ赤な鮮血がどんどん滲んでいく…! …えぇい、今更後悔すんなよ自分!!
狐はこちらの言葉を理解しているのか(そんな筈ないか)、黙って傷口をハンカチで覆う作業を見つめている。
…大丈夫なのかな。
「森へお帰り……なーんてね! ナ○シカみたい!! 大体ここ森だってね! あ、違う山か。……狐相手に喋るのって虚しいね…」
馬鹿じゃん、私。本格的に馬鹿じゃん。
少し狐の喉元を撫でてやると(良く噛み付かれなかったもんだよ、まったく)、気持ち良さそうに目を閉じている。
かーわいーいなぁ、まったくもう。
その様子を見ていると、何だか満たされた気分になって、さっきまでのイラつきもどこかへ行ってしまった。
「じゃーね! 仲間と喧嘩なんかすんなよー!!」
我ながら馬鹿らしいとホントに思ったが、まァ良いか。
いつの間にか山に登りたいという気持ちも消えていた。先程の場所はまだ入って間もない所だったし、頂上にはまだまだ距離があった。
私は昔、あの頂上に出た瞬間の明るさとか眺めが大好きだったから、今回の衝動もきっとそれに似ていて頂上にまで到達すれば消えるものだと思っていたのだが。
良い事をしたと自分では思い込んでいるからなのかな。
……結局、何だったのだろう。
何故かふと、名前を呼ばれた気がした。
と―――。
衝動ブルースカイ
あとがき
やってしまいましたよまたまた連載!!
突発的に浮かんで来たネタです。ほのぼの重視で行きたいと思います!!
そして驚くべきは名前変換が1つしかない事ですΣ(oд○ノ)ノ
やっぱり主人公視点で書くと名前変換が異様に減ってしまう…orz
相手役がね、たくさん名前を読んでくれる人だとまだ良いんですよ…。
2008.06.08