「………」
「ん? どしたの、旦那」
「おお、佐助。いやな、の姿が見えぬ故どこにおるものかと探しておるのだ」
祝言を挙げてからは、幸村は妻のの事を「殿」ではなく呼び捨てで呼ぶようになった。
幸村本人は「それが夫というものだろう」とどこか誇らしげに勘違いしており、は自分を呼び捨てで呼ぶ人間が周りには皆無に等しかった為喜んでいるし。
そんな状況を見ていた佐助や信玄も、勿論と嫌な気持ちなど一切湧いて来る筈もなく、それを微笑ましいものを見る様な表情になっていた。例えるならば、仔犬の兄弟同士のじゃれ合いを見ているような。
「姫? どっか行ったの?」
「うむ…。見当たらぬのだ」
普段彼女が好む場所は粗方覗いたというので、ぼちぼちと姫探しでもしようかと思っていた矢先、黒い影がサッと二人の前に降り立った。
佐助の部下の忍の一人だ。
「連絡! ここより丑寅の方向の山に伊達軍筆頭と思わしき人物が!!」
「何!? まさか急襲か!!?」
「いえ、五人程度の人数で馬に乗って来たようです!」
「……五人?」
それまで黙っていた佐助がおもむろに呟いた。
どう考えても少な過ぎる。急襲の恐れはないだろう。
「旦那! まずその人数で急襲の可能性はない! 取り敢えず」
「そ、それともう一件! 姫様が伊達と接近しております!!」
「何ィ!?」
「はァ!?」
何故彼女が。
しかし山に出ていたなら確かに今ここに居ない事にも筋が通る。
「……あ、でも旦那。」
「何だ佐助ェ! 俺は今すぐを「姫って元は伊達の姫で竜の旦那の実姉だろ?」
あ。
まるで阿呆のようにそこで数秒彼らは立ち尽くしていた。
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・
・
(やばいよ、やばいって!!)
は咄嗟に両手で口を押さえたが最早後の祭り。
昨夜、あの妖艶な月を見た時以上の冷や汗が体中を伝うのをはただ感じていた。頭が本当に真っ白で、呼吸の方法さえも忘れかけている。
逃げろ、なんて思うだけで、それがどのような行為の事を指すのかさえも解らない。
「殿、俺が見て来る。」
頭のどこかで成実だという事は理解した。
そしてどんどんと近付く度に大きくなる足音に、は先程以上に身体を硬直させた。
心の端で、もうどうにでもなれ、という開き直りの精神が顔を覗かせる。
木の根元の方を覗き込んだ成実とそれを見上げているの視線が交錯した。
・
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積翠寺城の縁側に、一人は渋い顔で腕を組んで腰掛けており、もう一人はその姿に大してもう何度目か解らない溜息を吐いた。
「あのさァ、旦那。竜の旦那だってそんな極悪非道じゃない……んだからさ、実の姉を傷付けたりとかはしないでしょ」
「む……。しかしだな、佐助」
「何?」
幸村はやや考え込むような仕草を取った後、決心したように膝をパンッと叩いた。
「お前には話していない事があるのだが」
「え、何それちょっと。」
「はな、奥州から無断で出て来ているのだ」
「…え? だって旦那との祝言の為でしょ?」
「名目上はな。だがは何かしらあちらであったらしく、一人で馬を走らせて来ている」
「え!? 俺様そんな事知らないよ!」
「その時お前は他国に偵察の仕事をこなしに行っておっただろうが」
実際佐助はその場に居た。
それとなく木の陰から見守ったりなんかしていたのだが、やはり幸村には気付かれていなかったらしい。
(…ま、旦那に気付かれちゃ俺様忍失格なんだけど)
別に幸村の感覚が鈍っているとかそのような事ではないが、本業が忍なだけに、一武将に隠している気配を悟られるのは最早命取り。
幸村自身もその時周りに佐助がいる感覚はしたものの、確信はないし、どこかそんな気がするだけだった。元々佐助は然程気配を殺してはいなかったし、並みの人間より気配がないのは身体に染み付いてしまった忍の血の所為だ。
「不仲が原因で出て来たのかは知らぬが、再会を素直に喜ぶとは思えぬ」
その主君の呟きが、佐助には嫌に響いた。
あとがき
「姫探し」って何か「姫始め」みたいなry←
少しずつシリアス脱出はして、る…?(疑問系) 元はギャグの方が得意なんでそっちに路線戻したいorz
シリアスも大好きですよ。気分的に凄い読みたくなる時もあるし。書き易いのはシリアスなんだ、けど…!
さてー、成実に見つかっちゃいました。どうなるかな!←
武田軍は存在が既にギャグだから書いてて楽しい!!^^
2007.03.30
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