やばいってやばいって死ぬよ私これ。
最早叫んでしまいたい。威嚇でもして怯んだ隙に逃げようか。いや、無理だからそんな事。
2つの視線が交差したままピクリと逸れもしない。ただ成実の方は驚きの余り目を見張っているだけで。
この無言の時間がには凄まじく長く感じられた。ほんの数秒の事だというのに、まるで半日のような。
「……ぁ」
何か言葉を発しようとすれば、掠れた音だけがの喉から出て行く。
成実はすっと腕を動かした。何かしら自分に危害を加える事だと本能で察知したはざっと両手を構えて防御姿勢を取った。日頃の鍛錬は無駄じゃなかった、なんてのは今考えてもほぼ無意味だ。
成実の腕の先の動きを見逃してなるものかと必死で見つめれば、それは人差し指だけを立てて彼の唇の前で持って行かれた。いつもの人当たりの良さそうな笑みを顔に張り付かせて。
「…え」
ざっと勢い良く元の方向を振り返り、歩き返しながら「だーれも。ただ栗鼠だったよ」と政宗達に報告した。
政宗はまだ何か言いたげな表情を作ったが、先を急ぐ事を優先しているらしく、すぐに馬に乗れと成実に告げる。
数頭の馬の蹄の音が聞こえなくなって、はほっと息を吐いた。どうやら自分は見逃して貰えたらしい。
「…今までのアイツの悪行は許してやっても良いかな」
彼だけは親族で唯一自分の味方でいてくれているという安心感が、の頬を少しだけ赤らめた。
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「ゆっ、幸村様…っ! ご、ご迷惑をおかけしました…申し訳、ございませ…」
あの後はすぐに文字通り飛んでやって来た佐助に保護され、あっという間に積翠寺城に着いてしまった。
どんどんと景色が変わって行くのは楽しかったが、些か慣れなかった為か酔ってしまったようだ。自分は大して動いてもいない筈なのに何故か激しく肩で息をする始末。を連れて来た当の本人は全くケロリとしている分にはそれが羨ましくもあり恨めしくも思えた。
「な、なに、良い。気にする必要はござらん。……して」
「は、はい。」
この人が突然自ら話題を変えようとするなんて珍しい。
それだけに身体も思わず緊張してしまった。何かまずい事でもしてしまったのだろうかという一抹の不安が脳裏を過ぎる。
「先程、この近辺の山道で政宗殿を目撃したとの情報が「あぁぁぁあああああ!! わ、私ちょっとご用が…!」
「…………嘘でござろう」
(な、何でこんな時に限って鋭いのよ!!)
察して欲しい時は全く気付いてくれもしないクセに。
「…会うたのでござろう?」
「………」
シラを切り通そうかと思ったが、チラリと幸村の顔を上目遣いで見てみれば何やらそれも通じそうにないように思えたので大人しく供述する事にした。
「……会ってはいません。少々姿を捉えただけです」
そう言えば幸村はじぃ、との瞳を覗き込んで来る。
すぐに佐助も参戦して来て、は幸村と佐助、両者から目を覗き込まれ何だか居た堪れない気分になったが、自分は何も嘘は言っていないと必死で堪えた。
「…どうやら嘘じゃないっぽいね。接触はしてないみたい」
「ふむ。……しかし政宗殿は何用で甲斐まで…」
その言葉にはギクリと身体を強張らせた。
(しまった! まだその問題もあったんだ!!)
先程の窮地を脱したお陰ですっかりその事を忘れていた。
確かに政宗は「姉上を返して貰う」と言っていたのだ。彼にとっての姉上はつまりは。
とは言っても本人に帰る気は殊更ない。
(あぁ、でもそしたら皆さんにご迷惑が…! あー、でも帰りたくないィィイイ)
その場で葛藤していると、一人の兵がこちらに大急ぎでやって来た。
幸村と佐助は心の中で「またか」と思ってしまう。
「幸村殿、…何故か奥州の独眼竜が訪ねて来ていますが…」
「ま、政宗殿が!?」
(っぎゃ――――――っっ!!!!!!!!)
は最早心の中では大絶叫。まさかここまで本当に乗り込んで来るとは思っていなかった。
幸村本人も同様に、近くの山道にいるがどうせ通り道にするだけであろう程度の考えだったのだ。過去にそのような経験がある為に。
それがまさかの正面からやって来た。の背筋に冷や汗が滝の様に流れている。
その様子を佐助だけが冷静に見つめていた。
あとがき
成実!!!(・∀・)b
最近成実も大好きになって来ているという…っ!! モブだけどさ。
ゲームで見ていると何だかマスク的なものを着けて、る…?
長い槍みたいなのを持って相手をガン付けてますよね、長時間。何故攻撃しないんだろうか、コイツは。
何だろう、佐助は常にこの位置?(笑)
2008.04.23
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