その後、は半ば叫びながら追い出すようにして伊達の一行を帰らせた。
自分でもこんなに叫んだりした事なんてないかも、と自身思えるほどにだ。
帰り際の政宗の言葉には微かに反感を憶えたが、今となっては気にしない。
少なくとも本人はそう思い込んでいた。
―――姉上のそれは逃げです―――。
きっとその言葉で姉が少しでも反応し、反感を覚え、自分に何か言ってくれれば良いと思っての言葉だったのだろう。
しかしの反応は余りにも薄く、小さく「そう…」と呟いただけだった。
いつの間にやら足枷を付けられた、そんな気分。
あなたの姿はここにはありはしないと言うのに、残した言葉だけが心の中を掻き乱していく。
「、朝餉が出来たぞ」
「幸村様。すぐ参ります」
数日振りに和やかな笑みを見せたに幸村は内心安堵した。
ここ数日は周りに心配かけまいとして笑ってはいたものの、どこか痛々しくて見ていられなかったのである。
自然な笑みを浮かべているから、きっと大丈夫なのだろう。
「お、今日はちゃんと全部食べれそうだな」
「ご心配おかけして申し訳ございませぬ。もう大丈夫です」
元気のなかったこの数日間、それに伴いはあまり食が進まなかった。
どこかしらを見つめており、ほんの少しだけ回りに不気味さを憶えさせる程。
下らん噂が侍女達の間で少しだけ流れたらしいが、すぐに消えるものであろう。
女というものは本当に噂好きだな、と何気なく幸村は考えていた。
「……あの、幸村様……」
「む?」
「…申し訳ないのですが……汁物は私の分まで飲まれませんか?」
「飲めと言われれば飲むが……、あぁ、まだ沁みるのだな!」
もう一度申し訳ございませんと、が恥ずかしそうに耳を赤らめながら俯き呟いた。
先日政宗に頬を叩かれた所為で口の中が切れて汁物なんて飲んだら堪ったものではない。切れた部分にとっては余りにも痛い。
この間の一件がまるで嘘の様である。
幼少の頃、まだ幸村自身が元服もしていなかった頃に初めて出会った彼女は、まだ女としてはどこも特出しておらず、気の強さや言葉遣い、並みの女よりも武道に精通している事から女とは捉えていなかった事を思い出す。
その頃の事を思い出すと随分とおしとやかにはなった方ではあるな、と密かに幸村は思う。
まさか本気で娶れるとは思っていなかった彼女が今ここにいる事がどことなく不思議にさえ思えてしまうのだ。
「あぁ、そう言えばそろそろ七夕だな」
ふと思い出したようにそう言った幸村のひと言に、僅かに反応を示したのは他でもないだった。やけに目が見開いている。
「た、七夕……?」
「左様。……? 奥州にはかような行事はなかったのか?」
地域によって行事に対する重んじ方が違うのはいつの時代も同じである。
もしかすると奥州のような偏狭の地にはこの行事はなかったのかも知れない。
そう思い幸村が七夕についての説明を始めようとすると、
「ゆ、幸村様! 急がなくては!!」
「ぬぉあ!? な、何をでござるか?」
「七夕でございましょう!? 一大事でございます!! はっ、早く大きな笹を準備しなければ…!!」
奥州にも「七夕」の行事がある事はこのの言動から確認出来たが、しかしこの慌てぶりはどうした事であろうか。
「い、いかがした……?」
「急がねば! 七夕と言えば年中最大行事!! もっと気合を入れて準備に取り掛からなくてはなりません!!」
「…え?」
「…………え? …あっ、も、もしかして、甲斐では違う、の、ですか…?」
段々と言葉が尻すぼみになって行きながらも、は少し冷や汗を流し必死に確認するような瞳で幸村を覗き込んだ。
勿論、甲斐での年中最大行事は七夕ではない。
「……やはり、奥州と甲斐とでは違うな」
益々の顔に赤みが注した。
あとがき
1ヶ月以上放置ってどーいう!?
取り敢えずシリアス空気を打破しようとした結果。……思わず季節ネタというか行事ネタまで入っちゃいましたねー…^^;
この間本を買って、その中に七夕は奥州で最も重要な行事だと書いてあったので「マジか!!」と一人やけに反応を示しちゃった故にこんなネタに…。
ホントにささやか〜にしか書かれてないんですけどね。知ってる人は知ってる本…だと、思います。きっと。
それにしても更新する時間がない……!!!orz
2008.06.29
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