元服の日は、刻一刻と近付いて
その度に少女を不安にさせた。
「」
「…! 父上っ!!」
部屋で大人しく座り込んで嫌々ながら侍女達に見せ付けるようにお手玉でもしてやっていたら、ふと背後から声をかけられた。
と梵天丸の父・輝宗。その人であった。
彼もまた普段とは違う娘の大人しい姿に、物珍しそうに目を剥く。
「がお手玉とは、珍しいな」
「……皆から、した方がご自身の為ですよって、言われました」
「ほお?」
「嫁いだ後に恥をかかないように、と。……どうして男児と同じように武芸に励んではいけないのです?」
輝宗は一瞬声を詰まらせた後、笑いながらの正面に座った。
「は男(おのこ)のようだな。戦に出たいのか?」
「いえ、出たいとは思いません。どうせ足手纏いになるだけです」
はどこか拗ねたようにそう言う。
輝宗もそれには苦笑を返すしかなかった。
「でも、最後には自分の身を護れるのは自分だけですから。男に頼ってばかりは嫌でございます」
「……は、馬の稽古がしたいのか?」
「っ、はい! それと、薙刀も!!」
パッと表情を変え、まるで楽しそうには父に向かってそう言った。声音も先程とは明らかに違う。
心のどこかでさせてくれるのかという期待を感じているようで、それが表にも明らかに滲み出ていた。
「ふむ。侍女達はの薙刀捌きは立派だと申しておったぞ」
「まだまだです! あんな捌きでは足軽一人とて倒せませぬ!」
この精進に励む思いは兵にも見習わせたいものだと思う。
しかしは一国の姫。このような思いを抱く必要性などない。
「あ、父上。私もうそろそろ……」
「ん? …あぁ、梵の所か。」
「父上も来られますか?」
「いや、今から軍議をかけなければならんのでな。行っておいで」
「はい! 行って参ります!」
バッと立ち上がって襖を開け、振り返り父に礼をしたところまではまだ良かったが、襖を閉めた後、あの足音を聞いて、輝宗は再び苦笑をして立ち上がった。
「……はて、誰に似たかな」
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「あ、ちゃん」
庭に出て、どんどん離れへと距離が縮まっていく時、少し前方から名を呼ばれた。
久しく顔を見た気もする、従兄弟だった。
「おっと、時宗丸ゥ! 久し振り!」
「久し振りー。梵のとこ?」
「うん。さっきまで部屋に閉じ込められてた。お手玉なんてやってられるかって感じよね」
「やれよ、姫だろ。」
「無礼者。立場を弁えろ」
「……何で小十郎は良くて俺はそーいう扱いなわけェ?」
小十郎さんは年上なんだから当たり前でしょ、と少し馬鹿にした様子では時宗丸を見る。
時宗丸はそれを適当に流してから、をじとりと見た。
「…何、また無礼者扱いされたいの?」
「今日は薙刀持ってないんだ。良かったー」
「……アンタ、まさかこの間の話知ってるの…?」
時宗丸はニヤニヤとした笑みを湛えながら、「奥州の姫は血気盛ん、勇猛果敢なんだね」と言う。
大きなお世話だ、とは彼を睨み付けた。
「そんなんじゃ嫁の貰い手がいなくなるって」
「そっちの方が良い。」
「おいおい…。それにさ、もう縁談の話だって来てるんじゃない?」
「…母上が用意した相手なんて嫌よ。父上のなら良いけど」
「相変わらず、義姫様嫌いなの?」
「……当たり前よ」
嫌い。
全てが嫌い。
何をしても彼に許して貰えるあの人が。
無条件に愛されているあの人が
憎くて憎くて仕方がない。
あとがき
あれ、明るいと思わせて最後は暗い…?
今回はアレです、前編・後編と分けました。何だか…入りきらなくて…orz 輝宗さんは穏やかだったらしいので、何か想像でこんな感じです。
次は梵を登場させるぞ…!!!
この話に小次郎は出ないと確信しました。私の中では彼はイメージも固まっていないです。超アバウト。
そして今更ながら小十郎が神職の子であると知りました。無知過ぎるだろ、私。
元服という事なので、大体梵は11歳頃ですね。15歳で元服だと思い込んでた…! 政宗、15歳で初陣だったそうで。いや、色々書いてると身の為にもなりますね(何言ってんだ)。
あ、時宗丸は成実の幼名(らしい)です。
2008.03.22
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