皆がいる。
でもそんなに多いというわけではない。
ハラハラした緊迫感がこの場の空気を支配している。
私と、対立している母上と、政宗と、小十郎さん。
何が、きっかけだったのだろうか。
思い出すのも、億劫に思えてしまう。
頭で考えるな、感じろってやつだ。
「たかが目玉一つで…! 政宗に、自分の子供に対する態度なんですか、それは!!」
自ら望んでそうなったわけでもないのに、とはぎりりと唇を噛み締めた。いくら自分の母親だからと言って、総てに従う必要がどこにあろうか。
まだ尚弟に対して罵声を浴びせようとする母に嫌気がさし、は咄嗟に手にしていた薙刀を振り翳した。
「様!!!」
小十郎の声が響いた。
その瞬間、の視界に青が飛び込んで来る。
刃同士がぶつかり合って発せられた高い金属音は、の思いを示しているようだ。
信じられない。そう、言いたげな瞳。
「何で、庇うの……?」
弟の行動が解せない。何故そうまでして母の肩を持つのか。
彼女は毒まで仕込んであなたを殺そうとしたというのに。
「いくら姉上でも…母上を傷付ける事は許さねェ」
キッとを睨んだ政宗の表情が一瞬にして驚きの色に染まったのを、小十郎だけが見ていた。縁は最早政宗の表情など見ていない。その瞳の奥底に潜んでいる思いなど感じ取っていない。
小十郎の方からは見えていないが、の表情が先ほどのものとは一変していたのだ。それは、まるで政宗が過去に一度だけしてみせた表情にも似ていた。どうすべきか解らない幼い子供のような、そんな困惑を浮かべた表情。
「……ごめん」
数秒無言が続いた後、が掠れた声でそう呟いた。
政宗も、聞き取れたかどうか解らない程の小さな呟き。
そんな風にされると、政宗の方まで困惑してしまう。
自分の根元にあるような恐怖が、随分と上の方まで上がって来るような感覚に見舞われる。
捨てられる。そんな恐怖。
「あ、姉う……」
政宗が呼び掛けたと同時には振り返り、出口に向かって一目散に走り出した。
姫という風貌を感じさせないような、人の目なんて気にしていないような走りだ。一瞬誰もが戸惑ったが、その分彼女の足は驚く程俊敏だった。
「なっ!!?」
「様!!!?」
なめていた。
姫だから何もしないし出来ないだろうと高を括っていた。
しかし彼女は予想に反し、留めて置いた馬にひと思いに飛び乗り走り出させた。
姫があんなに一気に馬に跨がれるなんて、誰も予想などしていなかっただろう。
「様!!!」
「姉上!!!」
小十郎が素早く出口の方に向かい見たが、既に姿はない。追おうにも、現在この場に留めて置いた馬はあの一頭だけだ。
「チッ……!!」
どんなに動こうと、何を思おうと、中に生まれるのは焦りだけだ。
そんな中、政宗は確かに聞いた。
背後の母が、静かに自分の姉の名を呼んだのを―――。
「…………?」
あとがき
うーん…?
というか私はこのシリーズが何故続くのか(自分で言うなよ)。
この後はアレです、全然違う話になります。…私はこれを誰の夢したいのか…orz
2008/03/01
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