Dancing in the velvet moon




何を考えているのか、本人でも解らなかった。
確かな事実は今、自分が馬に乗りそれを走らせているという事だ。
何処へ行く当てもないのに、ただあそこにはいたくなかったから。
今までの自分の愛情、信頼―――。その他総てを政宗に与え尽くして来たつもりだった。
なのに、裏切られた。
何があってもあの弟だけは自分を裏切らないでいてくれると思っていたのに。
何故自分の身を危険に晒してまで、あの母を許し助けるのか。殺されそうになっていたにも関わらず……。
いくら自分が尽くしても、お前は母上には敵わないと言われているようだった。
何もせず憎しみだけを彼に向ける母と、愛情を一心に注いで来た姉など、比較するにも値しないと思っていたのに。彼の中ではとは逆の方で比較するに値しなかったのか。

「ふっ……く、うっ……!」

段々と速度が落ちて行く。
そしてどんどん両目から涙が溢れ出す。それは本人の意思とは相反していた。
そっと右目に触れると、余計に虚しさだけが募った。
彼には無い、右目―――。
父上はいない。母上は嫌い。最愛の弟にも裏切られ母側に取り込まれた。
最早絶望しか出来ない。

「……はぁ。ごめんねェ、こんな所まで走らせちゃって……」

まぁ、戦に行く時なんてこれとは比べ物にならないぐらい走らされているんだろうけど。
ふとはある事を思い出した。
馬は足などと負傷して動けなくなると死だけが待つらしい。
走って足を動かす事で健康を保っているのだと。負傷して歩く事も間々ならなくなった馬にとって最も良い方法とは「安楽死」らしい。
足が命と言っても過言ではないと。

「……私にとっての政宗みたァい…」

何となくそう思って、呟いた。
彼がなければ私は本当に何も無い人間ではなかろうかと。そんな不安ばかりが心の中の劣情をかき乱して膨張させていく。

「………………馬鹿じゃないの」

自嘲の笑みを浮かべるぐらいしか、この場を凌ぐ方法が見つけられない。
落ち着いた涙をまた流したくもない。

とぼとぼと馬を歩かせ続ける。もうも走らせる事に対して疲労を感じるのだ。
馬の背に跨ったまま鬣をそっと撫でた。
政宗の髪もこんな色だったなァ、なんて。

ふと気付いた。
ここまでひたすら山道の坂を下っていただけだった。そうとすれば―――。

「……そろそろ、武田の領地かしら……」

多分、大丈夫な筈だ。
と信玄は顔見知りだ。父・輝宗と一緒に会っていたのをうっすらとだが憶えている。確かに昔の話ではあるが、平気だろう。

「……信玄様に匿って貰うってのも一つの手ではあるわよね…」

他の領主び顔見知りなんて、信玄くらいのものである。
の目の前にはやや獣道ではあるが、人が通ったらしき後がある。残念な事に、ここで2つに分かれている。
積翠寺城へはどちらの道を辿ったものか―――。
ここは運に身を任せるしかあるまい、そう意を決して歩き出そうとした矢先、今度は真っ赤なものがの眼前に飛び出して来た。


さっきは青だったのに―――。
驚きつつも、はそうとしか思えなかった。






あとがき
話が全く進んでなくて申し訳ありませ…っ!orz
自白…ではないけども、どれだけショックかとか、政宗の存在のデカさだとか、ヒロインにとってのそーいうものの再認識みたいな…。すいません言ってる事が整理出来なくなって来ましたorz
父はいない、と書いてますけど畠山一行の拉致のやつの後、って事で…。いや、そこまで時間とか考えて作成はしていませんが…orz
武田軍はね、愛故です、愛(笑)。ちなみに積翠寺城は信玄が生まれた城ではありますが、そこを拠点としてたかどうかは知りません(´・ω・`)
もう誰が出て来たかバレバレですね! お館さぶぁあああ!!!
2008/03/08


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