Blue Moon




「何奴!!?」

目の前に現れた「赤」はそう叫んだ。








「名乗られよ!! ここは甲斐、の……」
「…幸村様?」
「……殿?」

2人して疑問符を浮かべながら、互いの名を呼んだ。知り合いであるという事に安堵し、幸村は槍の切っ先を降ろし、先程よりも不思議そうな顔をした。

「む…? しゅ、祝言の日取りはまだの筈では…?」
「あ、え…あの…少々事情がございまして…」

は気まずそうに下を向いて、すぐに気付いた様子で馬を降りた。

「…護衛の者は…」
「ひ、一人でここまで来まして…」
「何と!!?」

これには流石に幸村を驚きを隠せなかった。伊達家の姫ともあろう者が、こんな山賊が出る恐れもある山道を一人馬を走らせて来たとは何事だと。おまけに近々自分の妻となる姫が。
おどおどとしながらも、幸村はこの場を凌ぐ為の提案をした。

「と、とにかく上田城へ参ろうぞ。馬は某が手綱を引く故」
「す、すみません…。あの……」
「む? 何でござろう? …あ、馬になら某が持ち上げて「そ、そのような事ではなくてっ!!」

顔を真っ赤にしてそう言うに、幸村はそれ以上何も言えなくなってしまった。苦し紛れに話題を変える。

「そ、そうでござるか…。では?」
「…あの、ま、政宗にはこの事は…内密ににして頂けないでしょうか?」
「…殿、政宗殿に言ってからここまで参られたのではないでござるか?」
「(い、意外に鋭い…)は、はい…。行き先を掴ませたくないので…」

幸村は少し迷った。それは傍目から見ても思案している顔で、は不安に駆られた。

「…まァ、良いでござろう」
「ほっ、本当ですか!?」
「うむ! 某、虚言はないでござるよ!!」

第一印象と同じように、嘘が吐けない人なんだろうと思われた。
きっとこの人なら大丈夫だと、幾分が安心出来た。

「ありがとうございます!!」
「妻の願いぐらい叶えてやらねば、夫失格なのでな!」

その返事には顔を真っ赤にしたが、それでも頬を緩め微笑んだ。
幸村も照れたように笑みを浮かべる。
段々と陽も傾いてきた事を感じ取った幸村は、足早にを持ち上げ馬に乗せた後、自分もその後ろに跨って馬を走らせた。




前から頬を掠めていく冷たい風と、背後から着物越しに伝わって来る温かさを感じたはひどく安堵した。






あとがき
何か一気にほのぼの…? 姫、近々幸村と結納予定でした。
史実大好きですけどここでは全無視ですからね!!(^^;)A
全然進まなくてすみません…!orz 毎度これぐらいの短さで進むと思われます。
2008/03/10


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