いにしえの月




総てが
過ちだと気付いたのは

いつの頃だったか。




















「ほう…これがあのか。随分立派になったものよ」
「そんな、信玄様…。まだまだ見目も内も未熟にございます」
「そんな事はないがのう…。ところで……祝言の日取りは今日だったかの?」

その言葉には苦笑するしかなかった。
やはり皆祝言を挙げる為に甲斐に来たと思っているようだ。
はちらりと信玄の隣の幸村に目配せすれば、彼もまた苦笑し、信玄に申し出した。

「お館様。某、殿とは武田領内の山道で逢いまして」
「む、それでは他の御付の者は…」
「それが、殿は一人でここまで馬を走らせて来たらしく」
「…………」

信玄はまさか、という表情で幸村に向けていた顔を縁の方に向けたが、彼女もまた力なく笑むので、真であると信じらざるを得なくなった。

「ふむ…。良かったのう、幸村! 随分と夫思いの妻ではないか!!」
「え?」
「お、お館様ァ!!?」

信玄は自分の言葉に頷きながらニコニコとしている。
どうやら彼はが祝言の日を待ちきれずに想い逸って幸村に会いに甲斐まで来たと勘違いしたらしい。
勿論幸村はそれを弁解しようとしたが、が幸村を止めた。

「お館様、実は「幸村様!!」

の方を見れば、必死で幸村に何か目で伝えようとしているのだが、幸村にはそれが到底理解出来なかった。
結果的には幸村がの方に移動する事になったが、それを信玄は満足そうに笑って見ている。

「な、何でござるか、殿」
「申し訳ございません…。出来れば否定せず、このままで話を通して頂きたいのですが」
「…何故?」
「あ、あの…信玄様はとても親身になってくれるお方なので、私が奥州から出奔したと解れば、至極心配なされるでしょうし、この事が奥州の方にも届いてしまう筈です。そうなると私にとっても状況が……」
「……うむ…しかし…」
「お願いします幸村様! 政宗達が甲斐だと嗅ぎ付けたら皆様にも迷惑がかかってしまいます!! …それに……」

眉の両端を下げ、困ったような表情をしているだが、段々と頬に赤みが注して来た。
幸村は首を傾げての顔を覗き込んだ。

「ゆ、幸村様と離されるやも………」

不安げな表情でそう言われて黙ってられるか。

最早自棄を起こした幸村はの手を取りギュッと握って

殿! 祝言の日取り、明後日にでも早めようぞ!!!」

と叫んだ。

「え、ま、真でございますか!? あと一月は余裕があったのでは…」
「うむ!! …先にそうしておけば政宗殿がやって来たとしても平気でござろう?」

ボソリと耳元で言われた最後の言葉に安堵し、はにかんだようには礼を言いながら笑みを湛えた。






その様子を見ていた信玄も、今度は大声で笑った。












「え、何これ? 俺様がいない間に何があったの!?」

帰って来た真田忍隊の長は城中の者が忙しなく動いているのをみて混乱したとか。


















「Okay…。下がって良いぞ」
「はっ」

政宗がそう言うと、目の前にいた忍は次の瞬間には消えていた。
そしてすぐに小十郎が姿を現す。

「小十郎」
「は。」
「虎狩りだ。」
「………! 承知」




兵なんて必要ない。
この戦は。
この狩りは―――。






あとがき
砂を吐きそうになるのを何度こらえた事か。
何だよもうこれ政宗夢じゃねェよ。丸っきり幸村じゃん。
お館様登場。あんなおじさまが良い(笑)。
さて、不穏な雲行きですね。
2008/03/18


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